なぜか今年はエフェクターを例年よりも多く入手する傾向にあったものの、個別に記事を書くにはちょっと、という感じでもあったので、2020 年という括りの中で買ったり、交換したり、譲ってもらった物をここに紹介する。
一応 2020 年に紹介する必然性のあるものを、という観点も交えた上で選定しているが、“インドアで過ごす時間を考慮して小音量でも良い音を”みたいなクリシェは特に接続していない。
写真における各つまみの設定値につきましては、必ずしも実使用の際のそれと一致していない点だけご承知おきください。
Maxon - SM-9
@puisheen が絶賛してるのを見て以前から興味はあったのだけれど、安く放出されてたのを見つけたのでこれ幸いと回収した。
一般的な Level, Drive のほかに中域周りやアタック感などを作り込めるノブが 3 個とやたら多く用意されており、結構面白い。
基本的には右に回せば回すほどリッチな中域と噛み付くようなアタック感 etc が出てくるので、思考停止して全体的にざっくり右に回すだけでも十分いい感じなリードギター向けに成立した音になる。取り立ててメタルに特化した感じでもないけど、ザクザクした EQ も当然可能。ネックとしては少し音量が小さい感があり、この個体特有の事象かは不明だけど Level つまみも大体は右側を向いた状態になる。
TS 系界隈では著名な JRC4558D が豪勢に使用されていることから、オペアンプ目当てでの購入も行われているとかいないとか。でも基本的には安く入手でき、Shred Master 買うぐらいならこれのが良いのでは?と感じる程度には出音と市場評価が乖離している印象。
Danelectro - Breakdown
Univox の Uni-Drive を参照したとされているけれど、Uni-Drive はフットペダルで連続的にサチュレーション度合いを増減できるのに対して、Breakdown では 6 段階のプリセットで表現されていて潔い。
音色としては素直に信号を増幅するタイプの歪みで、粒の荒さと、微妙な匙加減の石っぽさがいい感じ。上手く形容しにくいけれど、The Rover を弾きたくなる感触と書けば伝わるかも。プリセットは 2 が一番好みで、ギターアンプに対するブースターとして絶妙にプッシュしつつも反応性を損なわない良さがある印象。もちろん 4〜6 まで上げて強い飽和感や潰れた感触を得るのも悪くない。
Uni-Drive というリファレンスの選択が、Jext Telez のようなガレージメーカーではなくダンエレクトロが?という感じだし、筐体のエイジドされたあしらいも少し挑戦的で、廉価帯において中国製エフェクターの台頭を許した感のあるダンエレクトロを今後も応援したくなるようなモデルだった。まあ、元から価格を訴求するというよりはユニークな製品設計や参照元のセレクトに魅力を発揮するタイプのメーカーですが。
商品説明にオリジナルの Uni-Drive を紹介する文脈で”有名な神ギタリストが使用したペダル”という一文があって笑ってしまった。
Benson - Preamp
顔が良いことから 2018 年辺りに話題を集めた、広い用途を網羅できる横断的な一台。もちろん顔が良いので買った。
設定を問わず全体的に通底した粒の粗さがありつつも素性の良さがあって、かなり好み(筆者は基本粒を細かめに整えたりせず演奏の情報量を損なわない系の歪みを好意的に評価します)。
- ギターとアンプそのものの音が残る
- これ自体の個性もちゃんと反映される
という両立の難しそうな 2 軸を上手くバランスをとりつつ成立させている。例えば普通に良いギターと良いアンプの間に接続しても程良い味付けとして機能するし、スタジオ常設の JC120 や JCM2000 などのしんどい部分をどうにかするのにもちゃんと機能すると思う。JC120 使わないので知らんけど。
とはいえある程度意識的にブルースロック以降のエレキギターによるリード表現を演奏で出力できる人向けで、例えば BOSS BD-2 や Big Muff などを切り替えて音を一変させるスタイルを好む人が粒の荒さだけを当てにして買ったとしても、あまり面白く感じられないかもしれない。
プリアンプと命名されているものの、特にアンプの Return へ繋いでもあまり必然性のある感じにはならず、普通にエフェクターとしての使用を想定されている模様。ちなみにオンにすると逆位相になる。
各販売店とのコラボレーションなどでカラーバリエーションが充実していて、自分好みのものを選択するのも一興だ。先日の Deep Sea Diver 新作リリースの際のコラボレーションモデルも記憶に新しいですね。
ギターだけでなくコーヒー豆も扱っている Black Bobbin 限定バージョンがかわいかったので注文した。
Buffalo fx - Stiletto Fuzz
あまり露出の多くないメーカーだが、gilmourish.com の界隈で愛好されている。主に Big Muff タイプのものが多くラインナップしている中で、この Stiletto は独創性の高い感じで気になっていたところ格安だったのもあり入手した。
とにかく倍音が良い感じで、ご機嫌なリードギター向けの音が鳴らせる。Fuzz Face と Rangemaster の中間みたいに説明されているけど結構その通りかもしれない。Rangemaster ほどのローカットは発生しないので Rory Gallagher のようなカリカリした質感は得にくいが、ブリッジ PU でも存分に太さと中域の粘りを活かした音として仕上がる。JTM45 をクランクアップさせた所へ、さらに増幅させるようにこれを追加するとオクターブ上の成分も乗ってきて最高。ただし Bias つまみだけは現状あまり良い感じに機能せず、ほぼ右へ回し切った状態で使う感じになっている。
POT のトルクやスイッチの選定、ジャック位置など全体的に 2020 年において要求されそうな諸般の要素をしっかりと網羅していて、隙の無い感じに作り込まれている。 このような質実剛健型のエフェクターって収集癖のあるタイプのバンドマンにはあまり刺さっていない印象で、こと Stiletto に至ってはビジュアル的にも強く訴求するような要素に乏しいため勿体なさを感じるが、自分の演奏情報が音にちゃんと反映されるエフェクターは(たとえ演奏の上手くない筆者でも)使っていて気分が上がる。
JHS Pedals - Morning Glory V2
説明するまでもない定番機種だけど、これは現行ではなく Version 2.0。Instagram で見かけた投稿で V2 の顔の良さに興味が湧き、何年かに渡って出回るのを待っていたところ、今年ようやく入手できた。
V2 の傾向なのかは不明だけど、当初 V4(現行)へ抱いた印象ほどモダンに音がまとまってしまう感じが少なめで、自分の中での Morning Glory 再評価へ寄与した個体になってる。
とはいえ最後に V4 を試したのが結構前なので印象自体が薄くなっている部分はあり、V2 と現行の直接比較みたいなことはできていない。この V2 の時点ではすでに基盤が PCB とのことで、回路もそんな変わらないだろうし、音自体も”初期の方が良い”みたいなことはそんなに無いかも。
Morning Glory に関しては Josh が特集映像を公開していて、どのような変遷を辿ったか過去のバージョンから逐一説明している。
Marshall - Drive Master
昔持っていたものの行方不明で、今年買い戻した形になる。
同じシリーズの Blues Breaker や Shred Master のように著名なアーティストの使用で評価が高まってレプリカ的な機種が作られるようになったわけでもなく、端的に申して全く注目されていないモデルだが、別に誰も使っていないわけではない。
具体的にはNick McCabe (The Verve) のセットアップに入っていたのに釣られて自分もこれを入手した経緯があり、出音の領域が近い Guv’nor と比べて程よく暗めで粒が粗く、ローファイな性質からどことなく 90’s のブリットポップな雰囲気が感じられるので気に入っている。すごい好きな機種です。
Danelectro - Daddy O
さらに Guv’nor と近い存在。かつ、昔持っていて手放したのを今年あらためて入手した第二弾。品番としては「DO-1」にて表記される。
ほぼ Guv’nor に近い回路っぽいけれど何だか密度というか圧が抑えられた感触で、大体ビジュアルから受けるローファイな雰囲気と符号している。
まるで音圧が欠けるみたいな物言いになってしまいそうだが、そういうわけでもなく、むしろ程よく大味な印象が緩和されて R.E.M. や The Replacements など 80’s のカレッジロックで聴けるような、良い意味でガサツなギターの歪みが得られる印象。
US Indie ファンの間では Built to Spill の Doug が使っていたことでお馴染みかもしれない。自分の場合、Greg Pope の使用している映像が改めて注目するきっかけとなった。
Greg については過去の記事にて紹介している。
Electro-Harmonix - Germanium OD
これはまず最高で、BOSS のコンパクトエフェクターと大差ない価格帯で入手できるので買ってみてくださいとしか言いようがない。
65 Amps - Colour Bender
現在では多くのメーカーから Tone Bender のレプリカであったり、リファレンスとして引用したエフェクターがリリースされている中、この Colour Bender はかなりクリーンでミニマルなビジュアルが異質に思えて以前から気になっていた。たまたま Tone Bender 的なものが手元にないタイミングがここ 2 年ほどあって、ちょうどこれが破格で販売されていたので回収してしまった。
2008~2010 頃には露出も盛んだった感のある 65 Amps はギターアンプだけでなくエフェクターも手掛けていて、この Colour Bender のほかにも同じ筐体を利用した Fuzz Face と Rangemaster のレプリカモデルを展開している。
アンプをビジネスの軸とするメーカーだからなのかは不明だが、これは濃密な Bender 感に寄せた懐古タイプというより、割とピュアに信号を増幅しつつアンプと一体化したコントロール性を付与することを意図しているような感触がある。
演奏者が Tone Bender に自分を合わせていける本来の道具性はそのままに、2 つのトグルスイッチで電気的な領域での操作性に余裕を持たせ、ギターないしアンプとのマッチングを整えやすくしている点で、良くデザインされた Tone Bender であるように思える。
Durham Electronics - Crazy Horse
“スタジオミュージシャン領域で活動してるけど割とローファイな表現も数多く出している”系のプレイヤーがこれを使っている事例を過去に何回か見かけ、以前から気になっていた。こう書いておいて何だけど例えとして全然伝わらない気がしてきている。
音自体は Fuzz Face を基本線に少し Big Muff のトーン管理を掛け合わせた雰囲気で、入力インピーダンスを問わずそこそこ安定的に運用できる。また、入力ゲインを下げた時の音色変化が Fuzz Face より緩やか(ただし鈴鳴り要素も控えめ)で、要するにギターに付いているボリュームつまみを下げた時の音色変化に繊細な操作性が要求されず、上手く Fuzz Face との棲み分けもできているバランス感覚の一台。
名前から想像される Neil Young 感は、まあそこまで…という印象で、あと上で紹介した Stiletto と違って電圧変化のつまみを絞った時のブチブチした音も Wilco がやってそうな感じで割と使える雰囲気がある。 エフェクトチェイン内での相性などにあまり左右されず、気軽に使える音の Fuzz を導入できる点が、前述したスタジオワーク系の人の間で好評を博した理由なのかもしれない。
課題感として、ビジュアルデザインが全然イケてないのと、IN/OUT ジャックの配置が地味に謎で理解に苦しんでいる。
この Durham Electronics のエフェクターは 2010 年頃に結構露出が多かった印象で、そこそこ高価なのだけれど破格で入手できた。他にも 10 年ちょっと前くらいに一世を風靡したメーカーが現在ではあまり活動的な様子が見られなかったり、また中古なら安価に入手できるようになってきている印象で、とりわけ演奏者の表現をそのまま出力するような素性の良いものや、質実剛健だけど真面目過ぎてエフェクター愛好家にはウケずに放出されたと思しきものが、観た感じの範囲内ではそこそこ見受けられる。
具体的には 65 Amps や Durham 以外にも Skreddy や Barber(これはもっと前からあるけども)、Menatone に Lovepedal などで、こういったメーカーのラインナップを気軽に自分の環境で試しやすくなった現在だからこそ、廉価帯エフェクターをクソアニメ的に評価しようと頑張る一昔前の感じだけではなく、ちょっと前のガレージメーカーの製品に再び注目してみることで 2020 年代の散財をちょっと面白くできるかもしれない。
直近の予定としては、Crazy Horse に関して現行の方がイケてるし、中古だとメーカーに金が入っていないのもあり現行に機種変したいと考えている。